蓮池通信
子ども×神奈川県立美術館・鎌倉館

神奈川県立近代美術館での活動2
2008年度6年3組

2008年5月~7月 「音で描こう」

作品をよくみて、感じたことを伝える手段は「言葉」だけではない。 言葉に表現できない何か、言葉の向こう側にあるその何かを探り、伝え、共感できればまたひとつ質の高い鑑賞になる。 2008年度6年3組では、「みる・はなす・きく・かんがえる」、そして「音でつたえる」ということに挑戦した。

1学期は鎌倉館で開催された「あの色/あの音/あの光」展に出かけ、まず作品から言葉をひろう作業をした。 それぞれの子が充実したひとりの時間を過ごし、五感を働かせながら自分なりの見方を深めていた。 その後グループを編成し、作品のイメージを「音」で共有した。 「この絵はこんな感じのリズムじゃない?」 「なんかちょっと違う気がする」 「のんびりした感じをどう表現しようかな」 「もっと光の感じを入れた方がいいね」 「この音がイメージに近いなぁ」 「いいねぇ」 「その感じわかる」・・・、など仲間とかかわりながらよりみんなが共感できるイメージを探っていた。 子どもたちは途中中間発表をし、自分達のイメージがみんなに伝わっているかを確認した。 そして、みんなから出た感想をきっかけに浮かんだ新しいイメージに向かって再度音づくりをした。

8つのグループが6つの作品から気になる1つを選び、作曲しました。 それぞれの音をじっくり聴いてみて下さい。

(高松)

松本陽子「私的光景」

松本陽子「私的光景」

  1. 青山義雄「湖のほとり」
  2. 松本陽子「私的光景」
  3. 村井正誠「水辺の人々」
  4. 村井正誠「ウルバン」
  5. シャガール「ダフニスとクロエ~ラモンとドリアスの夢~」
  6. シャガール「ダフニスとクロエ~ニンフの洞窟の婚礼の祝い~」

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2008年10月 「光と闇の美術館」

私達6年3組では今年のこすもぴあ(※附属鎌倉小の学芸的行事)で「光と闇の美術館」をやることになりました。6年生になってからずっと図工は五感を大切にし、音楽も取り入れてきました。だからその活動を生かして五感を使ってみんなにも楽しんでもらうことにしました。

「光と闇の美術館」の内容を決める時、みんなで意見を出し合って、まず「暗闇の中で五感を使っていろいろなものをさわってもらう」・「明るいところで私達の作品を展示する」という大きな柱を立てました。その後は材料係と設計係を決めて、その係の人達が細かい計画を決めてみんなに提案して、それをうけて当日までみんなで改良していきました。

「闇の美術館」の内容は、部屋を真っ暗闇にしてお客さんに目以外の感覚でいろいろなものを感じてもらうというもので、苦労した点は部屋の中に少しの光も入れないことでした。集めてきた段ボールを黒くぬり、窓や壁にはりつけ、こすもぴあ前日には光をすべてさえぎりました。でも光の美術館の準備をしている間に闇の美術館の部屋に少しずつ光がもれはじめました。闇の美術館は少しでも光が入ると意味がありません。だから私は光を通さないしゃ光カーテンを家からもってきて、光をさえぎる努力をしました。「闇の美術館」で私達が一番こだわった「真っ暗闇にすること」、それはかんたんそうでほんとうにむずかしいものでした。

「闇の美術館」は真っ暗なので、お客さんには入り口からガイドと一緒に入ってもらうのですが、館内に入るとまず、マットや人工しば、シュレッダーゴミ、すずらんテープなどをふみ、そのあと壁の穴に手を入れてスライムや紙粘土などいろいろな物をさわるなど、五感で感じる体験をしてもらいます。お客さんは暗闇の中、素足で歩くので不思議な感覚になったようです。あと、天井から風船がつるしてあったり、とんできたり、またきりふきで水をふらせることもしました。室内なのに雨がふっているかのように感じることができます。音楽も流して他の教室とは違う空気をつくりました。最後は暗闇の中で10センチ×10センチの小さな画用紙に絵を描いてもらいました。全く何も見えない中、五感だけで描いてもらった絵はとても不思議で楽しいものになりました。それまで図工でやってきた五感で感じることを取り入れた内容はとてもよかったと思っています。

「光の美術館」の内容は、6年3組のみんなが「光と闇」をテーマに描いた絵を展示することと、展示した絵と同じ色で描かれたカラープレートをみて、どの絵のプレートなのか当てる「鑑賞クイズ」をするというものでした。そしてもう一つは、私達が1学期に近代美術館の絵を鑑賞してつくった音楽をお客さんに聴いてもらい、どの絵の音楽かをあててもらうというものです。中でも私達が一番大変だったのが、展示する絵を描くことでした。40人+担任の先生が「光と闇」をテーマに自分のイメージで描きましたが、予想していたよりも「光と闇」を絵にするということがはるかにむずかしかったです。

こすもぴあ当日は、たくさんアクシデントはありましたが、お客さんには暗闇の中でいろんなものを五感で感じることでたくさん想像してもらえたのでよかったです。また、光の美術館もお客さんからたくさんの「楽しかった」という声が聞けてすごくうれしかったです。

私は「光と闇の美術館」をつくり、お客さんと交流する中で気づいたことがあります。真っ暗闇をつくるには近くに光がないといけないということです。光がないとどこが暗いのかわからない。だから、真っ暗をつくるにはやはり光が必要でした。光があるから闇があり、闇があるから光があるのだと思います。

今年のこすもぴあは「五感」を大切につくり、たくさんのお客さんに遊んでもらえたので満足です。これからもこの経験を生かして、もっといっぱい「五感」をつかっていきたいと思います。

(6年3組 チビすけ)

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2008年9月 「椅子のインスタレーション」

五感をテーマに取り組んできた6年3組。特に関心の高い子どもたちとは、1学期から休み時間に現代アートの本やDVDをよく見ながら企てをした。 中でもスコットランドの芸術家、アンディーゴールズワージーのDVDは子どもたちの感性を刺激し、「僕らも中庭に身のまわりのものを使って表現したい」と子どもたちの表現意欲をかきたてた。 ただの草地だった中庭が瞬く間に非日常空間へと変身し、「もっとやってみたい」という気持ちが高まり、活動をクラス全体に広げることとなった。

活動を広げる前に、インスタレーションという現代アートの曖昧な手法を6年生の子どもたちにどう伝え、感覚に落とすかについて考えた。 まず、大地の芸術祭(新潟県)の作品をスライドで鑑賞し、空間に設置されたオブジェよりも場所や空間全体が作品であるということを押さえた。 そしていつも使い慣れている椅子を校内に設置し、非日常的な空間を写真に撮るという課題にグループで取り組んだ。

どのグループも感性をニュートラルにし、日常を壊すことを楽しみながら、どんどん発想を広げていった。 ここで子どもたちと確認したことは、悪ふざけになった時点で作品ではなくなるということである。 撮影後の鑑賞では、真面目にふざけた写真と単に悪ふざけになった写真を比較し、空間全体が作品になっているものとそうでないものを感覚の中に落としていった。

作品を鑑賞している時の「お~」、「なるほど」、「これいいね!」、「すごい!」・・・ という言葉とともに起こる笑いはクラスにインスタレーションを“面白がるスイッチ”が入った証だった。

さらに後日、横浜で開催されていた横浜トリエンナーレにクラスで出かけ、直に様々なインスタレーション作品に触れる機会をもち、ますます表現への意欲を高めていった。

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2008年10~12月 「校内アートプロジェクト」

10月。子どもたちは「やるなら徹底的に」を合言葉に、表現の場を学校全体にまで広げ、 校内アートプロジェクトとして学校を現代アートの美術館にする活動を始めることになった。 7つのグループに分かれ、アイデアを出し合いながらそれぞれが1つのプロジェクトにまとめていった。

kinokoプロジェクト

<場所>小学校中庭
<理由>中庭を色とりどりの巨大キノコで華やかにしたい。
<使用するもの>傘、ペンキ、シュレッダーのごみなど

森パンの木プロジェクト

<場所>低学年グランド
<理由>真鶴町立真鶴小学校にある謎の木「森パン」。なぜ「森パン」というのか誰も知らない。その「森パン」の木を6年3組風にアレンジしてつくろうと企てた。学校の前を通る地域の方や観光客には鎌小のシンボルツリーとして親しんでほしい。
<使用するもの>すずらんテープ、シュレッダーのごみ、ホットボンド、毛糸、ペンキなど

廊下の革命プロジェクト

<場所>3階渡り廊下、2階図書室前廊下
<理由>「廊下は走らず右側通行」という約束を守らない人が多いのでなんとかしたい。
<使用するもの>ペットボトル、食紅、すずらんテープ、など

山頂プロジェクト

<場所>校門から中学校の裏山まで広域
<理由>見た人から「なんで?」「この先に本当に山があるの!?」「行ってみよう」という気持ちを引き出したい。山頂をみつけて思わず笑ってほしい。
<使用するもの>木材、ペンキ、竹、針金、大量の銀杏の葉、モナリザの複製など

ストロープロジェクト

<場所>高学年グランド南側の砂場
<理由>高学年グランドにあるもう一つの砂場。みんなが忘れてしまっている砂場の存在を目立たせたい。こんなところに砂場があったんだと思ってほしい。
<使用するもの>カラーストロー、石灰、落ち葉、竹など

上見展望台プロジェ

<場所>小学校中庭
<理由>普通展望台は上から下を見るもの。上見展望台は下から上を見上げる展望台。空を切り取り、天気や時間によって変わる空の様子を見てほしい。
<使用するもの>竹、針金、不織布、瓦礫など

モアイプロジェクト(和風庭園プロジェクト)

<場所>図工室裏空き地
<理由>突如空き地に現れた瓦礫のモアイに驚いてほしい。
<使用するもの>瓦礫、銀杏の落ち葉、竹など

高いモチベーションとともに10月にスタートしたプロジェクトは、12月の完成まで難航を極めた。 最大の理由は発想を形にすることが子どもたちの想像以上に難しかったことである。 面白い発想は次々と思い浮かぶ。しかしそれをいざ形にするとなれば、手間も時間もかかる。 その上、屋外に作品を設置する上での難敵は天候である。 少しできたと思えば、風雨で壊れまた振り出しに戻る。 またその上悪戯にもあい、壊され何度も振り出しに戻るグループもあった。 途中何度も挫けそうになるが、子どもたちとは椅子のインスタレーションの活動以降、「やるなら徹底的にやる」「少しでもふざけたり、手を抜いたりすれば作品でなくなる」ということを確認していたので、紆余曲折を乗り越えながら12月になんとか完成を迎えることができた。

活動後、「プロの作品を見たとき簡単にできると思ったけど、自分たちでやってみて本当にプロの人のすごさがわかった」という感想をもらした子がいた。 表現は決して表面的な楽しさだけで終わることはない。 いい作品をつくろうとすればするほど苦労も多く、それを乗り越えてこそ「楽しかった」の一言では片付けられない感情を味わうことができる。 6年3組の2学期は、その感情を分かち合えたところで終わった。

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2009年1~2月 「鎌倉みてウ・ナーレ」

冬休み中、すべての作品が風雨にさらされ、崩壊寸前になっていた。 3学期は片付けるという選択肢もあったが、子どもたちは苦労してつくった作品だからたくさんの人に見てほしいと手直しをし、2月末まで継続することを選んだ。 改めて横浜トリエンナーレならぬ附属イーハトーブ的行事(FIG)鎌倉みてウ・ナーレと称して、 選ばれた実行委員を中心にPR活動をし、全校児童や保護者、地域の方にも見てもらおうということになった。 しかし完成し、達成感を味わってから時間が経過していたため、子どもたちは「続けたい」という言葉とは裏腹にモチベーションが上がらず、作品は崩壊の一途をたどった。

2月初旬。再度クラスで話し合う機会をもった。 子どもたちからは、「正直つくっている時、完成した時のときめきが今はもうない」、「2月末まで続けないで、すっきり片付けたい」、「作品をみるとモヤモヤする」など正直な言葉が出てきた。 そして続けて「こういう表現はときめきがあるうちに壊したほうがいいかも」、「私たちは作品を設置して非日常空間をつくっていたけれど、時間が経ってすでに日常空間になっているから意味がない」、「現状では作品を片付けたほうが非日常空間になる」と核心に迫った。 時間をかけ、自分たちでつくり上げてきた活動の最後は決してプラスイメージで締めくくることはできなかったが、インスタレーションの意味を一つ実感とともに自分たちの中に落とすことができた。

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(高松)

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