蓮池通信
子ども×神奈川県立美術館・鎌倉館

神奈川県立近代美術館での活動4
2008年度4年1組

2009年1月~3月 「絵から劇をつくろう」

4年生の3学期の最初の授業は、神奈川県立近代美術館の所蔵作品展へ行き、実際の作品を目の前にいろいろなことをじかに感じとった。 事前に近代美術館のアートカードを使ったゲームを通して作品に触れていたので、本物と出会えたこども達は嬉しい様子だった。 絵をみに出かけた翌週、展示されていた作品の中で自分の好きな絵、気になった絵を一枚選んだ。この絵から自分達で物語を考え演劇を行おうという試みである。

まずは感じたことやみつけたことを、どんなことでもいいので正直にかきだした。 そして感じた事をもとにいろいろな想像をふくらませた。 作品に描かれている人物に名前をつけることや、色から季節を考えることから始まり、 ぶきみな部分や不思議な部分から実際にはおこりえないような物語を考えたり、 作品の中に描かれている人物から会話を想像してみたり、複数の絵を結びつけて一つの物語をつくったりした。 積わらが描かれた風景画からは、鳥の鳴き声や、わらの中で寝ている人の寝息の音、時間帯、その村での暮らしぶりなどと、実際には描かれていないことまでも感じとっている子もいた。 物語という形式を与えることで、絵と子ども達の距離がどんどん近づいていく様子がみられた。

劇を作っていく中で必要な、役決めやセリフを考えている時は子ども達同士大いに盛り上がった。 意見の衝突も起こるような刺激しあいながらの関わり合いの中で、絵の中に入りこみづらいという壁がなくなり夢中になって楽しんでいた。 また、お互いの感じたことをぶつけあいながら、意見をすりあわせながら、感じたことの違いを受け入れ少しずつ形にしていった。 感想を伝えあう絵の鑑賞では、ここまでリアルに自分達が絵から受ける感じに真剣に向かい合うことはないのかもしれない。 自分が演じるという設定だったからこそ、自分のこととして受けいれることができ、より絵に近づく体験となったのではないかと感じる。 絵の中で感じた描かれているなんでかよくわからないもの にも意味づけをしていくことで想像力を大いに働かせていた。 こども達の自由な絵の見方、感じ方に驚かされながらも、不景気の話、倒産して仕事がない話、テロリストの登場する話などの発想からは、現代社会を生きるこども達ならではのものがあった。

4年生の二学期に こすもぴあ という、体育学芸的行事において 劇団はぬみしこ として寿限無の劇をおこなっていた。 演じることの基礎ができており担任の先生の演劇指導があったことや、図工の時間以外でも時間を確保できたこと、これらがあったからこそ形にできた実践である。 からだを動かしながら練習を重ね、みる人のことを意識して劇を作っていった。 劇は3分くらいの寸劇から15分くらいのものまで、全部で9つの劇が出来上がった。 学校内で、他学年の児童や神奈川県立近代美術館の学芸員を招待して3回の公演を行うことができた。

自分達で絵から劇を作るという体験は、絵に対する鑑賞を深めるとても良い経験となった。 そして何よりも自分達の選んだ一枚の絵が特別なものになったことが大きな成果なのだと思う。 子ども達が今後の人生の中でまたこの絵と出会った時、どんな感情がわき上がるのだろうか。 絵は30年後も変わらない。その絵を前にした時、自分の変化に出会う。 私自身、鑑賞の魅力にまた一つ近づけた。(岡本薫)

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