蓮池通信
子ども×神奈川県立美術館・鎌倉館

学校美術館
2008年度美術委員会

学校行事をはじめ、日々の活動で多忙な学校生活を送る子どもたち。 美術館に出かけなくても“安心してひとりになれ”、“心静かにぼ~っとできる部屋”を校内に確保したいと考え、 二つある図工室のうち一つを日常的に美術鑑賞ができる「学校美術館」に改装した。

2008年5月~7月「学芸員のお気に入り展」

図工室の改装に伴い、6年生の有志が「美術委員会」を立ち上げ、1年間様々な展覧会を企画、運営をすることとなった。1回目の展覧会は「学芸員のお気に入り展」と題し、ふぞくっ子学芸員がお気に入りの作品を中心に展示した。作品には「どんな音が聴こえてきますか?」、「季節はいつですか?」、「どんな匂いがしますか?」、「この人の職業は何ですか?」・・・などの言葉を添え、鑑賞者に視点を与える工夫も試みた。来館した子どもたちの多くはこの言葉に反応し、一つひとつの作品をじっくり鑑賞していた。

展示室は二つに区切り、一つを映写室とした。ここでは鑑賞の授業をしたり、休み時間にはアートに関するDVDの上映をしたりした。中でもスコットランドの芸術家アンディーゴールズワージーのDVDは、子どもたちの造形意欲を大いにかき立て、休み時間の自主的なたてわり造形活動につながった。

また、展示室に入る前の廊下にも親しみやすい作品を展示し、子どもたちから美術館に入ってみたいという気持ちを引き出そうとした。安野光雅さんの「旅の絵本」や「森の絵本」の作品は、子どもたちの「みつける」、「みたてる」意欲をかき立て、休み時間には友達同士で鑑賞を楽しむ姿が多く見られた。

2008年7月「第1回校内作品展」

1学期末。美術委員会の子どもたちは1学期の図工の成果を発表しようと「校内作品展」を開催した。美術館にやってくるどの学年の子どもたちも新たな表現との出会いを新鮮に感じていた。特に低、中学年の子どもたちは、高学年の作品に憧れをもち、「いいなぁ。きれい。」、「やってみたいなぁ。」などの感想をもらしていた。実際この声をきっかけに全体の活動に発展したクラスもあり、子どもたちの造形意欲をかき立てる上で大切な機会となった。

また廊下にはエッシャーの作品を展示したが、足を止めてトリックアートの世界を楽しむ姿がたくさん見られた。

2008年10月~11月「ゴッホ展」

2学期になり、一人の画家をピックアップした展覧会をしようと「ゴッホ展」を開催した。 展示はゴッホの色づかいで印象的な黄色をテーマに工夫した。 しかし、来館した子どもたちの興味は映写室のアートアニメーションに向き、展示室でゴッホの作品を鑑賞する姿はほとんどなかった。 そこで、この企画展と連動して、3~6年生の鑑賞の授業でゴッホの「アルルの跳ね橋」を取り上げた。 中学年では「みつける」「みたてる」鑑賞からそれぞれが物語をつくり、自由に発想を広げた。また高学年では、自由に発想を広げるだけでなく、授業の最後にゴッホの生い立ちにふれた。そしてゴッホの黄色についての自分の考えを付箋にまとめ、来館者が自由に読むことができるようにした。1枚の作品について時間をかけて鑑賞することで、多くの子が展示室のゴッホの作品に親しみをもって鑑賞するようになった。

2008年12月~2009年1月「ジブリ展~男鹿和雄の世界~」

2学期末。2008年最後の展覧会は気張らず、みんなが素直に楽しめるものにしようということになった。子どもたちから出てきたプランは、スタジオジブリの絵と映像の作品を展示上映しようというものだった。美術委員会の子どもたちは、すぐに図書室の司書の先生にお願いし、ジブリ作品の背景美術を担当している男鹿和雄さんの画集を取り寄せてもらうことにした。

間もなく画集が届き、委員会の子どもたちは準備を進め、展示室は男鹿和雄さんの作品で埋まった。来館者は主人公が描かれていない背景画に主人公の姿や声を思い浮かべながら楽しんで鑑賞していた。

2009年1月~2月「第2回校内作品展」

3学期。冬休み中に鎌倉駅地下道ギャラリーに展示していたクラスごとの作品をあらためて全校のみんなにみてもらおうと「第2回校内作品展」を開催した。図工に限らずクラスの成果を展示した作品展は、あらためてそれぞれのクラス文化をふりかえる機会となった。

2009年3月「2008年度卒業制作展」

2008年度最後の展覧会は、1月から3月まで6年生が取り組んだ卒業制作を展示する「卒業制作展」を開催した。 6年1組は、日本画の顔料で学校の風景を描くこと(「附属39景」)に挑戦し、2組、3組はキャンバスに思い切って失敗ができるアクリル絵の具を使ってしっくりくるまで何度も重ね塗りをし、“自分探し”に挑戦した。 楽しかったのひとことでは片付けられない、決してたどり着くことのないゴールに向かってもがき続けた作品はどれも鑑賞者の目を惹きつけていた。

「学校美術館」初年度の試みは、全校の子どもたちが美術館というものを身近に感じるようになったという点では1つの成果を残すことができた。 しかし、物珍しさや映像見たさに1日に100人近くの子どもたちが美術館に訪れる日もあり、本当に心静かに時間を過ごしたい子どもたちやひとりになりたい子どもたちが美術館から足が遠のいたことが多々あった。 次年度は来館者の数を意識することなく、全校児童720人のうちたった数人でも時間を忘れてのんびり鑑賞したい子どもたちがいれば、その子たちが充実した時間を過ごすことができるような美術館の有り様を委員会の子どもたちと探っていきたい。(高松)

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