蓮池通信
子ども×神奈川県立美術館・鎌倉館

戦没画学生慰霊美術館 無言館
2007年度6年1組

無言館とは「信州の鎌倉」とよばれる長野県上田市の塩田平にある美術館である。 第二次世界大戦で没した画学生の慰霊を掲げてつくられたこの美術館は,信濃デッサン館の分館として1997年に開館した。館主の窪島誠一郎氏は,自らも出征経験をもつ画家の野見山曉治氏とともに全国を回って,戦没画学生の遺族を訪問して遺作を蒐集した。

戦没画学生の作品は,出征する直前に「自分が生きていた証」として, 家族や故郷の風景など自分の原風景を描いたものが多い。 窪島氏は,この生きていた証としての作品について「もう一つの生命」という言葉を使っている。 戦死した画学生は「命」がなくなっても,作品の中に「もう一つの生命」としてまだ生きているのである。

2007年4月~8月 「戦没画学生慰霊美術館 無言館に行こう!」

2007年度6年1組では,子どもの発案で5年生の頃から続けてきた神奈川県立近代美術館での鑑賞と沖縄の文化,平和学習から戦没画学生慰霊美術館「無言館」(長野県上田市)について学習することになった。そして「無言館」や館主の窪島誠一郎氏について学習を進めるなかで,夏休みの修学旅行においてクラスで無言館を訪れることになった。

子どもたちは1学期に画学生・伊沢洋が出征前に描いた「家族」という作品をプロジェクターで鑑賞した。とても裕福で幸せを絵にしたようなこの作品は,窪島氏の著書を読む中で実は空想画だということを知る。「貧しかった家族を絵の中だけでも…。」子どもたちは,彼の家族への思いを感じとった。この作品鑑賞から子どもたちは,それまで美術館で取り組んできた自由に言葉をひろい想像を広げることだけが鑑賞ではなく,時代や作者の背景を知ることで見方がさらに深まる鑑賞もあるということに気付いた。その後も多くの画学生の作品を鑑賞し,実物が展示された「無言館」への思いを募らせた。

夏休みの修学旅行で念願の「無言館」訪問を果たした。長い時間をかけて学習してきた無言館に自分たちの足でたどり着いたことの事実は,彼らの鑑賞の意欲を大いにかき立てた。しかし館内では,太平洋戦争で戦死した画学生がかつて生きていた証である実物の作品を前に子どもたちは言葉を失い,いつもはたくさんの言葉で埋まるワークシートも空白が目立った。作品から目をそらす子,目をそらしてはいけないと一つ一つをじっくりと凝視する子,涙ぐむ子など一人ひとりが言葉にできない何かを感じ取っていた。

ふりかえりでは,「全く言葉がひろえなかった」「言葉を書くと何かが壊れそうな気がした」「なぜかわからないけど涙が出た」「実際に訪れて無言館の重みが初めて実感できた」「このままだと中途半端だ」「やりたい,やりたくないではなく,2学期も学習を続けるべきだ」「無言館で会えなかった窪島さんに直接話が聞きたい」と多くの子どもから声があがった。

2007年11月 「無言館鎌倉館をつくろう」

2学期は,無言館訪問の余韻とともに再度学校で作品が描かれた背景を考えながら一つひとつじっくりと鑑賞した。そして,半年間続けてきた「無言館」の学習を通して学んだことを 館主の窪島誠一郎さんに手紙 で伝えた。 普段作文が苦手な子どももこれまで自分が感じたことや考えたこと,無言館で言葉にならなかった思いを何とか言葉にしようと自分と対峙する姿が見られた。

また,学芸的行事「こすもぴあ」では在校生や地域の方々に戦没画学生の存在を知ってもらおうと「無言館鎌倉館」をつくって展示発表とギャラリートークに挑戦し,多くの反響を得た。

無言館鎌倉館 来館者感想

2007年12月3日 「無言館館主・窪島誠一郎氏による特別授業」

2007年12月3日,子どもたちは憧れの窪島誠一郎氏をクラスに招いて特別授業を実現させた。窪島氏の授業は,自分が美術館をつくる際,近代美術館鎌倉館の当時(2代目)館長であった土方定一氏に大変お世話になったこともあり,鎌倉小に深い縁を感じるという話から始まった。そして,子どもたち一人ひとりが書いた手紙の内容に丁寧にふれ,「絵をみることはその前に立つ自分と向き合うこと」とクラスで2年間取り組んできた鑑賞の大切さを子どもたちに説いた。

また,「才能がなくても,画学生のように情熱をもって何かに取り組むことはみんなにもできる」と卒業を迎える子どもたちに言葉を残した。この出会いを機に子どもたちは小学校生活最後の音楽会,そして卒業制作へと気もちを高めていった。

3学期の音楽会では沖縄戦がテーマの「HEIWAの鐘」を唄い,卒業制作「画布に描こう」ではアクリル絵の具をとおして画学生と同じように画布と向かい合った。そして,お世話になった窪島氏に感謝の気もちを込めて,音楽会のCDと卒業制作画集を贈った。この卒業制作画集は現在,2008年9月に開館した無言館第2展示館内「オリーヴの読書館」に収められている。(高松)

HEIWAの鐘

卒業制作「画布に描こう」 (PDF)

無言館の学習のあしあと (PDF)

~ 戦没画学生慰霊美術館 無言館 ~

2008年9月20日、「無言館」の隣接地に、展示室「傷ついた画布のドーム」、
図書室「オリーヴの読書館」から成る第2展示館がオープン。

所在地 〒386‐1213 長野県上田市古安曽3462
TEL 0268‐37‐1650
アクセス
(公共)上田電鉄別所線塩田町駅から徒歩30分/シャトルバス7分無言館入口下車徒歩5分
(車) 上信越道上田菅平ICから別所温泉方面に行き、別所温泉入り口左折後、前山寺入り口の看板を右折。ICから約30分/松本市内から約1時間
開館時間 9時~17時(7~9月は18時まで)
休館日  無休(展示替え期間は除く)
入場料 無言館、第2展示館共通で 1000円
※20名以上の団体は要予約

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